シュフウグーの 主婦エッセイ

等身大の 心の旅 ~自己観察 家族観察 いのちの観察~

あなたは食器を下げるひと

ものの5分で食べ終えスクッと立ち上がると 彼はぐふふっと笑いを鼻に溜めながら 平らげたキーマカレーと麦茶の余韻を空の器とグラスに満たし両手に抱えて持ってきた

実家から届いた野菜の中の「子どもピーマン」というシシトウのような形の濃い緑色を輪切りにしながら瞬時に嬉しくなり言葉を放した

「ありがとう!嬉しぃ」

すぐに彼の小学3年生ぐらいの姿に省みてくれたのがこの上なく素直に思えて 有り難くて嬉しかったからそのまま伝えたのだ 彼のぐふふには昨日からのつながりがあり まな板に広げた原稿用紙の前編を持って今朝の出来事を綴っている

息子には心の内を結構な主張具合の独り言で投映することが多いから ことばがストレートでからだが弾けている場面も彼はその時の感情をそっちのけで受け止めることになる 今朝もそんな調子だから包丁にくっついた青い香りの一個が飛び跳ねた

せっかく溜めていたニヤけ笑いもシンクで両手を軽くした辺りですっかり涼しい顔になっていて 彼の低音が一文字か二文字ぐらいで返ってくるのは 母のオーバーリアクションに半分呆れて半分ウザいからだ

「ん…」

「いや それがあなたの本来の姿ですから」

語尾まではっきり届ける口調で 彼の右腕から30㎝ほどのこちらの空間に少しふざけて教壇を置いてみた 長身の息子の上腕二頭筋辺りが私の真っ直ぐな思いの目の高さである

 

私が選んだ道だ 息子はむしろ被害者であるとまで悲観的には捉えたくないが 明らかに環境が彼を変えていく危機感を ここ10年ほど抱かずにはいられなかった

 

初孫が受けるぬくもり感 突如訳も分からず従弟妹との共存生活に城を失う虚無感 開拓前進型血筋の理詰めの空気 親族一同バラエティーに富んでいて間違いなく躍動した毎日に 空気を読まずにいられるかとばかりに 幼くして彼は大人だった

靴は脱いだらかかとを揃えて部屋に上がり 履くときは一緒にいる人の靴を先に出してくれた 食事の前は手を合わせ8人一斉に「いた~だき~ます!」と合わせる声に少し遅れながらついていき 争奪戦や共同作業に「兄妹」という形を観て 時には混じってぶつかり離れた

人数の詳細も入れ替わり立ち替わり 小学生の一人っ子長男が受ける刺激は確かに戸惑いも量産したが この一家には 日の高いうちに目を閉じている大人などいなかったし 時間は財産とばかりにガシガシ身体を動かしていた 今もそれが実家だ

あの時の もしかしたら自分自身が逃げ出したのかな

脱皮?自立?全然違う 言葉を換えただけの「逃げ」

逃げの先に待っているのは その回答を裏切らず「逃げ」だ 要は心の持ち方次第 それだけだ それにしても あまりにも違いすぎた「つぎの居間」に後悔が膨れすぎて その居間からも逃げてここがある

逃げる母を見て育ったことを承知の上で 出したい私の翼を息子に広げて見せているのだ 朝の台所がリズミカルで 息子には「ウザいけど安定している」姿を見せているのはそういうことだ

自らの安定に必死な私は 消えていく息子の習慣を底に沈めているだけだと信じながら何も言わず過ごしてきた 夫を否定したい気持ちなどとうに通り過ぎたが 夫と同じ動作で日常が塗り替えられていく息子には ここら辺で見て見ぬ振りもできなくなっていたのが昨日の朝だ

上げ膳据え膳はそろそろ使い飽きた言葉だが 食べ終わって夫はタバコに火をつけた

煙で充満する部屋に追いつかないのは分かっていても台所の換気扇を即座につける頃 息子も食べ終わり 立ち上がって身支度をし始めた

私は息子を叱り飛ばしたことがない

ただし 真剣に聴いて欲しいときのきっかけは名前を強めてくっつける

「たけし(仮名)… 一生独身を貫くんだったら別にいいかもしれないけどさぁ 所帯持つんだったら 食べたあとの食器ぐらい下げたほうがいいと思うよ…ゼッタイ嫌われる」

言い終わる頃にはわざとニヤけて脅して見せる

「あぁ 所帯はもたないし」

まあまあ… ぼちぼちいこうじゃないかと このときの独り言はさすがに声には出さなかったが 結構ポーカーフェイス気味に我慢した

大体これも日々のリズムなのだろうか お弁当を包み終わる頃に事は進む 空気が変わったと思ったら 息子がくくっと笑って前傾姿勢で居間から食器を運び始めているのが視界に入った

「やっぱりさげよ(くくっ)」

まだニヤけている

「だよね だと思うわ母さんも」

「なに?」

「いやいや」

よみがえった!まで言いたかったがやめておいた コミュニケーション的にクドいと思った 息子との会話は生き甲斐で 大切にしたいと普通に思う

「行ってきます」

「行ってらっしゃい 気をつけて」

昨日の朝の送り出しの言葉を今朝も同じように掛けた 出来事がワープしたようだ

続きのストーリーが 早速わかりやすく展開すると正直思っていなくて 笑いを誘う意図も見えた気がして そうだとしたら出来事のワープを共有していたのだ

息子が頼もしく思えた瞬間でもあった 

台所が彼を磨き始めた

 

 

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花嫁修業の息子版といったところでしょうか。現在相手もいないし、まだまだ人様にすすめられるような魅力は持ち合わせておりませんが、今更ながら焦りを感じ、習慣の立て直しを始めております。

本日もお読みいただきありがとうございます。

次回のお越しもお待ちしております。

 

シュフウグー

 

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